私の命(第3部)

康平は気をしっかり持ち直して言葉に力を込めてこう聞きまし

た。「柴崎さん、ちょっと古い話だけど」「小学校1,2年生の

時***小学校じゃなかった?」

「うん、もう昔の事なので、よくは覚えてないけど、たぶんそう

やと思う。」「杉村君の事も少しは覚えているよ」「同じクラス

だったよね」「お父さんが転勤で東京に行ったの。でもまた中学

校の時こっちに戻って来て、今年の春からこの家に住んでいる」

「ふーん」康平はやっぱりあの子だったのかと分かって嬉しかっ

た。あの時の気持ちを話すべきかどうか考えたが、その時は切り

出せませんでした。

「私、英語はさ、小学生の時からずっと習っていたのよ、だから

、得意だけど、数学は昔から好きじゃないの、だから、不

得意でさ。本当は***市の****高校に行きたかったのよ。

でも数学がさ、どうしても成績伸びなくて今の高校に、入ったの

よ」

少し東京の言葉が入って話す彼女が康平には「さすが都会育ち」

って思っていました。しかし小学校の頃に想い抱いていた、憧れ

のイメージと現在の靖子のイメージにかなりギャップを感じ「去

る者は日々に疎とし。」なんだという想いを強くした康平でした

懐かしさと好感を持つ者同士だったので、親近感を持ち始め、そ

の後も二人の会話は続きました。


「私高校生にもなって自転車乗れないの。一度も乗ったことない

の。」「小学4年生の頃病気で入院して、それから外でほとんど

遊んだことないの。だから運動もとっても苦手」

「それからコーラもコーヒーも飲んだことないの。」「なんで」

「お医者さんに止められているの」

「ふーん。そうなのだ。」康平は掛ける言葉が見つからず靖子を

見て、うなずくしかできませんでした。「お金があって裕福でも

みんないろいろ辛い事もあるものだな。」と康平は思いました。

靖子の事がうらやましいよりは、むしろなんだか可哀想になって

きました。そんなことを思いながら康平がぼんやりと窓の外を眺

めていると靖子が言いました。

「そろそろ、勉強する?」「うん。」

「数学教えてあげるよ」康平が答えました。

靖子がカバンから教科書とノートを取り出しました。康平は間違

っている箇所を見て靖子に丁寧に説明し始めました。

「えーと、ここは」と康平は靖子の顔の近くまで自分の顔を無意

識に近づけていました。靖子の髪の毛からシャンプーの良い匂い

がプーンとして来ました。その時に康平は少し恥ずかしくなりま

した。そして靖子の顔から意識的に少し距離をとり説明すること

にしました。靖子が「え」、「分かりにくい」と聴き直す事が

多くなり、その後はただ教えることに専念することにしました。

しかし、ときたま、彼女と視線が合い、お互いが思わず、顔を

赤くさせ意識的に視線を落とし、そらします。「はずう♡」

その結果、靖子の近くで彼女をより近くに感じることが出来て康

平は普段感じたことの無い幸福感をその時すごく感じることがで

きました。何とけなげで、綺麗な真っすぐな目をしているんだ。

その日はお互い得意の勉強を教え合い2時間程で別れました。

帰り道、康平は嬉しさのあまり鼻歌を歌いながら、靖子の事を真

剣に考えながら自然と顔がほころび自転車を走らせていました。


今日はここまで。近藤浩二でした。

では、また。


アーカイブに、様々なかつての記録を見つけ読み返して

みると、われながら、あきれるほど、こんなにも多く

奇怪なはなし、書いてたものだと感心した。


 

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