小さな幸せ

月日は音もなく過ぎ去り、

季節はあっと言う間に移ろいでいく。

ふと思えば、もう三月だ。

うららかな上に陽気だ。

窓越しに差し込むまぶしい朝日に起こされつつも、

寒さのせいで、

一時をうつらうつらと寝床で過ごしていた

日々がウソのようだ。

目覚めとともに身体が起きることができる。


数年前より関わっているファミリーサポートいう仕事。

子供相手に学校、ジュク、習い事、保育園へと母親に代わっての送迎。

いわゆるアッシー君や、

食事の世話から遊びの相手など日常にわたる諸事全般。

いろんな人に会って話をし、楽しむことができる。

仕事って感じがまったくしない。


本日の午後のこと・・・・。

穏やかな気持ち、空は真っ青。

気分はもう春だ。

私の所望で、昼食のため隣町のお気に入りのパン屋に出かける。

コンビニでコスパの良い、アイスコーヒーをドリンクホルダーに、

大好きなチキンガーリックパンを皮切りにバジル風味の

野菜たっぷりのピザパン、あんバターなど数種を食する。

「ハ~ッ、美味しかった」

楽しさもあり、話しながら食べているとあっと言う間に時間が

過ぎてしまう。

気が付けば、もうお迎いの時間だ。

「今日は一緒に行く」

三月に卒園を迎え、この春から小学生へと階段を昇る、可愛いらしい少年。

それから車を走らすこと10分。

国道から山に向かう住宅街を少し抜けると保育園はある。

ほのかに紅色のしだれ桜が入り口付近に垂れていた。

そこかしこに、数羽の見慣れない名もなき鳥たちが

飛び交いさえずっている。

少し早かったのか5分前に保育園に着いた。

人も車もあったが込み合ってるわけじゃない。

園内で出会う人たち誰もが明るい笑顔で出迎えてくれる。

僕たちは親でもないが、園庭の風景に溶け込んでいた。

降車したマスク姿の家内の背後から紺色の征服姿がちらほらと

見え隠れしている。近づくとチラリと視線をこちらに顔を向けた。

瞬間、目が合った。彼は恥ずかしそうに薄く微笑んだ。

うつむいてしまった。でもすぐに顔を戻した。

短い時間の中で、

僕たちは何でもない話しをし、笑ったり感心したり、

ボウっと景色をながめたりした。

やがて無言が横たわる。でも、

少なくても僕はその無言を苦には感じなかった。

不思議なことに、無言であっても退屈でも窮屈でもない。

10分ほどで彼の家に着いた。すでに母親が玄関口で待っていた。

それに気付いた少年の真っ赤なほっぺが柔らかくゆるんだ。

母親とふたり並んで見送ってくれる。帰り際、

私は自動窓を開け、顔を向け、手のひらを広げ、彼に差し出した。

苦笑しながら、ぎこちなくも小さな手を広げ、ゆっくりと近づけてきた。

彼の可愛い手のひらが、私の右手のひらに軽く触れた。

一瞬、心が跳ねた。

そうして、私は幸福だった。

陽射しの温かさ、爽やかな空気、

彼の鼓動さえ感じられるような・・・

誰の目にも見えない所、気付かないところで

何かが震えるのだ。

決して私たちはいつでも会える深い関係ではない。

奇妙な縁でつながっているだけなのだ。

それでも、何気ないありふれた日常に出会える人が

いることが、ありがたかった、嬉しかった。

幸せで楽しいと、ほんと、人生は早い。まるで矢の様だ。


今日はここまで。

近藤浩二でした。ではまた。