下町ロケット

期待にたがわぬ、とはまさにこういうことを

言うのでしょう。予想を超える、対価を払ってもなおも

おつりが返って来るほどの、満足感で締めくくられました。

やっとゴースト編が終わったところなのに。物語はまだ始まった

ばかりなのです。またまた始まりました。零細企業の逆襲です。

テーマは「宇宙(そら)から大地へ」別の言葉で「ロケットから

農業機械へ」です。「週刊文春」連載ベストセラー小説です。


技術立国日本らしい、レベルの高い自分の技術に自信と誇りを

持った、でも商売下手でお人好しの人達の集まる中小企業、

佃製作所が、様々な苦難障害に直面しながらも、強い経営

理念と哲学を曲げることなく、たとえ壊れやすくて弱いながらも

一枚岩でも受けて立ち、全身全霊を傾けて、どうにか

乗り越えていくのです。ところが、ほっとしたのも、

つかの間です。あくどい輩は、執拗に留まる事無く、

否応なく小さな、ほころびを見つけては、想定外の手口で

攻撃を仕掛けられ、危うく切り崩されそうになります。

しかし崖っぷちの瀬戸際で、機転を利かせ、

はじき返し守りぬくのです。転じて反撃を繰り出し

最後には、勝利の雄叫びを上げるのです。


天才的で整合性のある、隙の無いストーリー展開と

物語の重要な分岐点での、絶妙な会話の駆け引き。

そして必然的に、どんでん返しで最後に勝利するなんて、

まさに池井戸作品の真骨頂なのです。どんな窮地に陥って、

先の見えない状況であっても、複雑で絡み合ったであろう

問題の糸が一気にほどけて、解決に導かれていくのです。


著者池井戸潤氏の作品の主人公は、誰もが共通して

思い描くであろう《善人》が《悪人》に必ず勝利します。

桁はずれのお人好しで、自分の事よりまず他人の事を

心配して、考慮して実践努力してしまうのです。今作も


自分が信じる《正義》のため、「困った人が居れば、見過ごせ

ない、救いの手を差し伸べる」と言った信念の行動原理が

存在するのです。解決の糸口の見つけ方は、人間の本心である、

心境の変化を詳細に描写することによって、物語を展開、

進行させていきます。そして最後の決め手は、我々人間が

《原点回帰》の行動をとった時に、初めて気付かされるのです。

その後、真理がさらに見えてきて、どれほど小さなきっかけ

であっても、突破口にして道が開かれる、と言った手法は、

まったくぶれずに顕在でした。


現代人が失いつつある、数字やお金だけでは表現出来ない

熱い《夢と情熱》だけが一番の才能で売りといった、

熱い善人による、勧善懲悪の物語なのです。こざかしい

《悪人》どもを心優しい《善人》達が、打ち砕いて

勝鬨(かちどき)を挙げる姿を見て、すっきり、スカッと

心晴れ晴れして、留飲(りゅういん)が一気に下がります。

しかるにその過程は紆余曲折で、戸惑いながら、彷徨

(さまよい)いながらも、人間の根源である《魂の尊厳》に

光が当てられ、人間の《良心》、《善》、《誠意》をとことん

信じ、自分の《正義》を貫いて生きる姿勢に感動して、共感する

仲間との痛快サクセスストーリーに僕も感涙(かんるい)に

くれるのでした。


今日はここまで。近藤浩二でした。

ではまた。