我が町には唯一国道が縦断しています。
隣町に行くには避けては通れない道です。
数年前より走行中、隣町との境目近く、国道沿いにカラオケスナックの看板が目につきました。カラオケスナック「あかね」とありました。
その屋号「あかね」と声に出して呼ぶと、車中で二人して共通の出来事を思い出します。《そして二人して、にやつくのでした。》
それはまさに《若気の至り》とでも言うものでしょうか?
僕が地元に帰ってきてサラリーマンをしていた15年程前の事でした。家内が仕事で大阪に出張に出かけたのでした。
家内が大型旅客船を利用した、その帰りの船内の出来事でした。
《ここから先は家内から聞いた話です。》
家内は電話を頻繁に使用します。充電が直ぐに無くなってしまいます。
当時はガラ系の折り畳みのピンク色の電話でストラップの類をチャラチャラとやたら多く付けていました。そのためよく目立つ電話でした。
現地で仕事終わりに、携帯の充電が残り少ない事に気づきました。大阪で船に乗り込んだと同時に、女性専用のトイレの近くでコンセントを見つけ、すでに充電している先客もいたようなので、安全であろうと安心して充電して置いたのでした。
夕食も済ませて露天風呂も頂いた後、寝る準備を終えてトイレの用事のついでに携帯を回収にきたのです。コードの先の携帯が見当たりません。焦りました。忘れ物として遺失物扱いになってるかもとのことで、案内所に届け出ました。寝床に戻ろうとした時に、ソファに腰かけて携帯をつついている女の子が目に入りました。
彼女の持っていた携帯は自分のそれと思われるものでした。特別なピンクのがら系の形から確信しました。声を掛けました。
「ちょっとごめん。その携帯電話、あなたのですか?」
女の子はびっくりしていましたが、「はい、私のです。」しかし目が少し泳いでいます。《嘘が付けないのです。ほんの出来心なのでしょう。》
さらに突っ込んで聞きます。「電話番号は?」「忘れました!」
女の子の表情が変わって下を向いて顔を隠そうとしています。
まじかで見ると間違いなく自分の携帯電話でした。
「ちょっと見せてくれる。」
《女の子も観念したしたようです。》
「はい。どうぞ」女の子はバツが悪そうに、家内に携帯電話を手渡しました。
「これ、トイレの近くに置いてあったよね!!」「盗ったの?」
「違います。」「忘れ物かと思ったのです。」「少し触らせてもらってただけです。」
「返してもらうよ!!」強く言い放ったのです。女の子は肩をすくめながら、小さい声で「すいません。」「ごめんなさい。」
「本当にすいません。」と何度も繰り返して頭を下げています。
携帯電話が見つかってほっとしたので、それ以上は咎めませんでした。
しかし家に帰って気が付きました。最も高価なストラップが無くなっているのでした。
当時パワーストーンが出始めていました。
流行りもの好きの夫婦はイオンの有名店で、個々人に合った石を組み合わせて、素敵なストラップとして高いお金を払って購入し、携帯に取り付けていました。
無くしたストラップはあの女の子の仕業であろうと推測できました。
しかし連絡先が解りません。ところがです。
《携帯を手にした彼女の心情はどうだったでしょうか?》
不意にも、とっても欲しかった、携帯電話を彼女は突然手にしたのです。
《誰かに電話を掛けたくて仕方なかったのでしょう。》
そして結局彼女は、親しい友人にその携帯から電話をしていたのでした。
《さぞや楽しく、少し自慢気に話したかもです。》
その形跡が履歴に残ってしまいました。
家内は当然その履歴へ電話を掛けました。そこには女の子の友人である、我が家の近くの中学の女子生徒が出ました。
そこで女の子の連絡先と彼女の名前が判明しました。
その彼女の名前が「**あかね」だったのでした。
早々女の子に電話を掛けて連絡をとりました。
「**あかねちゃん?」
「はい、そうです。」
「ちょっと聞きたい事があるのですが、」
「はい」
「携帯に色の付いた石のストラップ、付いてなかった?」
「付いていませんでしたよ。」
《言い逃れられると思ったのでしょう。》
《しかし悲しい事に、たかが子供の浅知恵と薄弱な覚悟なのです。》
「うそ、うーん」、《彼女は嘘をついていました。》
「あのストラップ結構、値段高いのよ」《家内が追い詰めて行きます。》
「しかもその石の持っている、エネルギーも高いのよ」
「それに作ってもらった人にしか、合わないように作ってるあるのよ」
「その本人が持っていると、すごいエネルギーが発揮できるのよ」
「でも、その本人以外の人間が持っていると、、、」
「石のエネルギーが強すぎて、、、、」
「本人以外の人間に」
「すごく悪い事が起こってしまうかもしれないのよ」
「分かる?」「分かろ?」、、、
、、、、、、《目に見えない力は強大です。》
《その女の子が驚いたように叫びました。》
「あ、ありました!!」
「今!!」
「ポケットに手を入れたらありました!!!」
《嘘つけ!! 調子良すぎやろ!》《最初からあったやろ!》
「これ、返します!!」
「そう」
といったやり取りがありました。
そして彼女は翌日の放課後に返すと言って、家の近くの公園に呼び出しました。
定刻5分前、駐車場にすでに自転車から降りて、神妙な表情で待っています。
少しやせた幼い顔立ちの可愛らしい女の子でした。
《本来は、真面目で素直で良い子でしょうに。》
《魔が差したのでしょう。》
家内が近づきました。
「**あかねちゃん?」
「はい、そうです。」
彼女は手に持っていたストラップを家内に渡しました。
「ほんとうに、ごめんなさい。」
と3回ほど言っては頭を、いっぱいいっぱい下げています。
《本当に悪い事をしたと反省しているようでした。》
「ごめんね。ありがとう」
「もう、絶対に、こんな事したらだめよ!!」
と家内が言って立ち去ろうとした時でした。
その女の子が家内に近づいて来ました。
「あの、すいません。」「これ!!」
と言って家内にある物を手渡しました。
家内が戻ってきました。車に乗り込んで、
これも渡されたとクシャクシャのメモ書きを、見せてくれました。
手で握りしめてポケットに入れていたのでしょう。
少し湿っていました。
メモ書きを広げて読んでみました。
鉛筆で丁寧に書いていました。
「ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい。」
「ゆるしてください。」「もう二度としません」
「おやにも、
学校にも、
けいさつにも、
ぜったい言わないでください。」
「おねがいします。」
**中学2年 **あかね
ところどころ、が漢字で、
ほとんどが平仮名で、書かれているところから、
彼女の学力が「推して知るべし」ですよね。
僕たちは数回読んで、おかしくておかしくて仕方ありませんでした。
わざわざ学校名と自分の本名をしっかり書き記していたのです。
《やっぱりまだまだ中学生だと思ったものです。》
僕たちが車で駐車場から出ていくまで、彼女はずっとこちら向きに、頭をいつまでも下げていました。
セーラー服姿の、そんな彼女がとても可愛らしかったことを思い出します。
《僕たちが誰にも「チクリ」しなかったのは当然です。》
その公園の近くに、カラオケスナック「あかね」はあるのです。
その女の子がその後成長して、そのカラオケスナック「あかね」で働いていても、不思議では無いと考えられるのでした。
僕たちは彼女と関わった一人の人間として、親のように、彼女の事が心配になるのでした。
機会があれば、ぜひその「あかね」に立ち寄ってみようと思っていますが、、、、、
国道を通り、カラオケスナック「あかね」を見るたびに、僕たちは当時の事を思い出して、にやにやするのでした。
これは当然、すべて実話です。
最近昔の事を思い出すことが非常に多くなりました。
これも《寄る年波》とでも言うのでしょうか?
今日はここまで。ではまた。近藤浩二でした。
では、次回の語り部は、コロコロコロ、
はい、世紀の大俳人、松尾 水ばしょうです。
お楽しみに。今日も2曲プレゼント。
ELOでミッドナイトブルーです。
http://taiyohanasaku.waterblue.ws/koji/wp/music/ELOMIDNIGHTBLUE.mp3
ブルーススプリングスティーンでハングリーハートです。
http://taiyohanasaku.waterblue.ws/koji/wp/music/BruceSpringsteenHungryHeart.mp3