ひさびさ

前年、4歳になった男の子が昨日我が家に遊びに来た。

(たびたび、登場するので、今さら、説明は不要だろう)

玄関口で、顔を見ると満面の笑顔でイスにかけている

小生のところまで走り寄って来た。

「おいちゃん、おみやげ(土産)あるよ」とうれしい言葉。

母親のところまで戻り、手に提(さ)げて返ってきた。

「ありがとう」にっこりと微笑み返す。見ていた家内が

「おばちゃんには? 」と聞くと、素知らぬ顔で即座に

「これ、おいちゃんと一緒に食べて・・・」と、

家内に視線を送りふたたび、にっこりと微笑む。その後

テレビ棚のすみに何やら見つけた様子で、寄ってしゃがみこんで

つかみとって、小生まで寄ってきて、拾った小さなホルダー

のようなものを、親指と人差し指ではさみつかんで

小生の目の前でぶらぶらと揺らせながら、こう言い放った。

「おいちゃん」と呼びかけ、ためて、ためて、

ゆっくりと、はっきりと、目をみつめながら

「これ、だいじ(大事)な、もん・じゃ・ない・のーー」

彼は得意げに、なかば、あざけるようにニタニタしていた。


以前から所属するある団体に、久方ぶりに見かけた女性との

会話。「お久しぶりですね」「ですね」

「お元気そうで何よりです」「ありがとうございます」「おかげ

さまで」両手をひざに、お互いおじきしながら笑顔で応える。

その女性はひと言で申せば、さしずめ《ザ・美人》と言えるかな

目鼻立ちの整った、人がらもさばけた足の長い40代二児の母親

スカーレット・オハラほどのしなやかな強さ。

オードリー・ヘップバーンに勝るとも劣らない品の良さ。

マザー・テレサばりの慈悲深さ。

一緒にいるだけで安心感といやしに包まれ

ほっこりさせていただけるほどの幸福感。

彼女を見かけるだけで、心にさわやかな風が吹き抜ける。

うれしくて思わず声をかけずに居られない。楽しませてあげたい

彼女に目線を送り呼び止め、

「ケチでバカな男の話し」「しましょうか?」「聞きたい? 」

「はい・・・」語尾が上がり、何だかけげんそうにしている。


「昔のころの江戸での話し、ひとりのケチでバカな男が居た。」

「はい、それで? 」「その男が、長屋のご隠居さんに呼び止め

られて」「てめえ、みっともねえたらありゃしない」

「おい、いい年して、鼻くらい《かめ》ってんだよ」

「ですけどねえ、紙がもったいねえでしょう? 」

「もったいねえだと、」「じゃ、良い事、教えてやろう」

「へい、何でしょう」「あのな、一回鼻かむだろう」

「鼻かむだろう」「その紙、すぐに、捨てるんじゃねえんだよ」

「へい、どうするんで? 」「ここから大事だからよく聞けよ」

「へい、」「鼻をかんだ紙を、よく洗って、乾(ほ)すんだよ」

「へい」「よくかわかした、その紙で・・・」

「へい、よくかわかした、その紙で・・・」

「よくかわいたその紙で・・・」

「そう、その紙で、おしりふくんだよ」「へい」

「1枚の紙で、2回使うから節約にもなるってすんぽうよ」

「な、どうだい? 」「いいですね」「そうだろうそうだろう」

いいことを聞いたと思った男はさっそく、行動に移すことに・・

それからしばらく後のこと。通りで出くわした男にご隠居さん

が問うた。

「てめえ、まだ鼻たらして、みっともねえやつだな、ほんとに」

「紙がもったいねんで」「何、もったいねえだと」

「前に教えてやったことすりゃいいだよ」

「へい、あっしも、やろうとしたんですけれどね・・・」

「お、やろうとしたけど、どうしたんって? 」

「それがねえ、(順番)じゅんばん、まちがえちゃってねえ」

「それから、一週間も、(臭)においがとれねえたら」「とれね

えたら」「困ったもんでして、弱った、よわっちゃったよ」

「てめえわ、ほんとのバカだなあ」

「あきれたご隠居さんが言ったそうな。」


今日はここまで。近藤浩二でした。

ではまた。笑ってよろしくです。


彼女は何とも言えない、不快そうでもあり、おもしろくもあると

言った、表現の難しい表情で、でもニタニタしながら、

小生から離れ、仕事に戻った。


 

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